第22章 はぐれた心の先に…(13)
そう信長様は昨夜、俺のものになれ。
つまり正式に私と養子縁組をして織田家の姫となるのを条件にこの場を用意してくれた。
ーーでもどうして、それが条件なんですか?
ーーその方が後々、俺と家康には好都合だからな。
信長様はただそれだけだ、と。
特に深い意味はないとは言っていたけど。
「家康……お前は怪我も治りきらない内に戦場に行くと申し出たり、望んでもない事を受け入れたり、その武将としての心行きは買ってやる」
だがな……
信長様は少しだけ優しい表情を浮かべる。
その表情はあの日。庭で駆け回る子供達を眺めていた時と、似ている気がした。
「俺も大事な自分の駒を、みすみす訳もわからん大名と、同盟を結ばすつもりはない。それよりもお前との同盟の絆を固く結ぶ証に……」
ひまりをくれてやる。
その言葉にやっと話が繋がった。
私が何故「正式」になる必要があったのか……
私と家康は顔を見合わせる。
信長様に返事はどうした?と聞かれ、
家康は姿勢を正し、
隣に座る私の手を取り
そっと握りしめると……
「喜んでお受けします」
そう返事をしてから、家康は深々と頭を下げた。
私はその一切迷いのない声に、嬉しさが込み上がり涙が溢れそうになる。
「まぁ、すぐにはやらんがな。全ての事が片付いたら、正式にひまりを迎えにこい」
また、グズグズしておると今度こそ俺に奪われるぞ?
信長様はそう言って、いつもみたいににやりと笑った。
「よくも、俺を侮辱しおったな!こうなったら戦だ!!帰ったらすぐにでもこんな城!!」
突然暴れ出した大名は家臣達を振り払い、声を荒げる。
「帰る城も無いというのに、どうするつもりだ?お前がのこのこと迎えに来てる間に壊滅したぞ」
「なっ!!」
「そ、そんな嘘よっ!」
「……嘘かどうかは自分達の目で確かめてこい。……今度は自らの意思でなく、国のために人質になるだけだ」
今の状況と対して変わらんであろ?
笑いながらそう言う信長様の声は、背筋が凍りつきそうな程冷たかった。