第22章 はぐれた心の先に…(13)
「ひまり前へ来い」
私は、着慣れない着物を床に擦りながら、一歩一歩ゆっくりと前に進む。
(家康……)
信長様の前で驚いたように、じっと私を見つめる家康の姿を見て、今すぐ駆け寄りたくなる衝動を必死に我慢する。
昨夜___
ーー…………俺のものになれ。
突然そう信長様に言われ時は、
本当にビックリして……
「絶対になりませんっ!」
思わず即答で断わってしまったけど。
でもその後、ちゃんとその言葉の意味を聞いて、もう自分の世界には戻らない。そう決心し、私は信長様の話を受け入れた。
(迷いなんてない)
私は家康の隣に静かに座ると、
呼吸を整え上座に座る信長様を見上げる。
「……ひまり、今ならまだ正室で迎えてやるぞ?」
信長様は私の反応を楽しむようにそう言って、口の端を上げる。昨夜、同じやり取りを散々繰り返していた私は頬を膨らませ、プイッと顔を背ける。
「それは昨夜、何度もお断りしました。私は……」
私は身体を少しだけ横に向け、
家康に視線を向けた。
「自分の気持ちに嘘はつきたくありません」
家康は私の言葉に更に目を見開く。
「家康」
「は、はいっ」
「……お前はひまりを守る為なら私欲は必要ないと言ったな?」
家康は静かに頷く。
「守ろうとする時点で、それはお前の私欲だ」
「え………?」
「そもそもこいつはそんな事、望んでないからな」
家康はその言葉にハッとして、私を見る。私は黙って頷くと、もう一度信長様の方に身体を向けた。
「何せ、俺の正室の座を断るぐらいの強情な女だからな。……どうしてもお前じゃないと嫌だ、の一点張りだ」
「ちょ、ちょっと待って下さい!!」
「一体何の茶番ですのっ!家康様と婚姻を結ぶのは私です!それに着飾った所で所詮はただの……」
築姫と築姫の父親は同時に声を上げ、私達の方へと向かってくる。
けれど、すぐ家臣の人達に囲まれその場で拘束されると……
「ひまりは昨夜、正式に織田家の姫として迎え入れた。無礼は許さんぞっ!!」
いつもの優しい秀吉さんとは違い、
威圧感が漂う声が広間に響く。