第156章 あなたにもう一度後日談(6)後編
安土城の敷地内の庭で、私は訪ねてきた遠方の姫君と肩を並べながら、特にあてもなく歩いていた。
暖かい日差しが連日続き、いつの間にか雪が溶け地面がその名残でキラキラと輝く。ふと、頭上を見上げれば冬にも関わらず藤の花が返り咲き、ゆらゆら揺れている。
(珍しいですね、藤の花が返り咲きなんて……)
通常春にしか咲かない藤の花。
この小春日和りの冬に誘われ、咲く時期が狂ってしまったのでしょう。
「……綺麗ですね」
「えっ……!は、はい!……本当に綺麗ですね」
すっかり隣に姫君が居たことも忘れて、藤の花に目を奪われてしまっていた。
「藤の花の花言葉は、ご存知ですか?」
男の癖に花言葉を聞くのは、可笑しいとは思いつつも何か話題をと思い、尋ねてみる。
姫君が首を横に振るのを見て、私は手を伸ばし藤の花に触れ……。
「決して離れない」
そう呟いた後、私は柄にもなく藤色の花弁に口づけを落としていた。
「三成様………?」
「……きっと貴方が、そんな風に思う殿方がいつか現れると思いますよ?」
私が微笑みながらそう言うと、姫君はその言葉の意味を理解してくれた様でぎゅっと唇を噛み締め、肩を震わせた。
「……そのお相手は、三成様にお願い出来ないのですか?それとも、もう既にお相手の方がいらっしゃるのですか?」
「わ、私ですかっ!……それは」
「三成!!」
(え………)
突然背後から声が聞こえ、振り返る。
ずっと、一緒って
約束したんだからっ!!
「みちゅなり、いっちょ!」
「…………時姫様?」
私の元に走り、指をぎゅっと握る小さなお姫様。
今、一瞬……
藤の花を付けた
可憐な少女の姿が。
「……姫君、すいません。やはり、私には既に……」
決して離れたくない。
「……そう思える方が居るみたいです」
「みちゅなり?」
私は藤の花弁を一房だけ摘み……
まだ、小さなお姫様の髪に挿した。
〜天邪鬼な姫物語〜原点〜