第155章 あなたにもう一度後日談(6)前編
「……ん」
(あっ……)
時姫様は小さな手で目をこすり、むくりと起き上がる。そして私の方にゆっくりと視線を向けると、ぱちぱちと大きな瞳を瞬きさせ、束の間だけ目が合った。
「……にぃに?じぃじ?」
ぽーっとした表情の後わ二人の姿を探すように、首をキョロキョロと動かす時姫様。そのお姿には、思わず口元が緩んでしまう。
「お二人は出掛けられましたよ。時姫様、朝御飯食べられますか?」
そう尋ねながら、そっと手を伸ばす。
すると大きな瞳が突然うるうると潤おうのを見て、私は慌てて手を引く。
「うっ…っ……」
(こ、これはまずいですっ)
私は急いで立ち上がり何かあやす物はないかと、部屋の中をあたふたと駆け回っていると、足先がツン。
「あっ……!」
《バタンッ!》
何にもない筈の床で躓き派手に転び、顔から勢いよく倒れ込んでしまった。
「……バ、タン?」
(な、何とお見苦しい姿を……)
情けなくて顔を上げられずにいると、
「い、ちゃい…いちゃい…の」
頭に柔らかい感触があたり、ふと見上げると時姫様が私の頭を一生懸命撫でて下さる姿。
それに、今度は私が泣きそうになり……。
「何とお優しいのでしょう。ありがとうございます、ありがとうございます!」
「……………三成。お前、まだ三つにもなってない時姫に何を必死に頭を下げてるんだ?」
「聞いて下さい!私のお見苦しい姿を、時姫様が大きな心で受け止めて下さって、嬉しくて、嬉しくて涙が出そうに……」
部屋に入ってきた光秀様と秀吉さん。私はお二人に事の成り行きを伝える。
「………秀吉。念の為、医者でも呼んでおくか」
「……そうだな。この状態で、夕方に遥々遠方から三成を訪ねてくる姫君に会わせるのは申し訳ない」
「???」
二人が何やら相談しているのを聞いて、時姫様と一緒に私は首を傾げた。