第21章 はぐれた心の先に…(12)
安土城にて___
「全員揃ったな」
上座にいる信長様はそう言って、にやりと笑みを浮かべる。広間の中段に秀吉さん、政宗さん、三成、そして俺。下段には、城の出入りをしている大名や家臣、そして俺と一緒に来た築姫たちが座っていた。お披露目、というだけあって広間にはいつもの倍以上の者が集められている。
「家康、前へ来い」
信長様はそう言って、俺の方に目線を向けそこに座れ、と言うように顎を動かす。俺は一礼して立ち上がり、脇息に肩肘を預けたまま座る、信長様の前へと移動する。
「腹を括る気になったか?」
予想通りの言葉に俺はしばらく口を閉ざした後、短い返事をして頷く。
「……ひまりを守る為なら、私欲などいりません」
真っ直ぐに見据え、そう答える俺に何故か満足気に笑みを浮かべると、信長様はそのまま視線を外し、下段にいる築姫の父親の方へと向ける。
「……長旅ご苦労であったな」
「そんな滅相もございませんっ!それよりも本日は娘の築姫の為にこんな素晴らしい場を設けて頂き、誠に感謝しております」
大名は深々と頭を下げてそう言うと、築姫を連れて俺の隣まで足を進めようとした時……
「……何の話だ?」
「へっ……………?」
大名は間抜けな声を出し、その場で固まったように立ち止まる。その言葉に驚いたのは俺も同じだったが、他の者は一切微動だにせず冷静に成り行きを見ている。
「何を勘違いしておるのか知らんが、たまたまお主が来ていると聞いて、折角だから姫の披露の場に呼んでやろうと思って、な?」
「で、ですから娘の築姫と家康様のお披露目を……『信長様、ご準備が整いました』」
大名の言葉を遮るように、襖からかけられた声に信長様は入れ、とだけ返事をする。まるでそれが合図かのように他の者は壁側に移動すると、
一斉に頭を下げ……
襖が開く音が聞こえる。
「ほぅ………なかなか似合うではないか」
信長様の言葉に、
訳が解らなくなった俺は
ゆっくりと振り返る。
そこには
十二単を、纏い
美しく着飾った
ひまりが居た。