第21章 はぐれた心の先に…(12)
俺は探し出した耳飾りを、
そっと文机の上に置く。
(こんな物の為にひまりは……)
置いた耳飾りをじっと見つめていると、長い時間水の中に浸かり、必死に探すひまりの姿が脳裏に浮かぶ。
あの時、触れた手は氷のように冷たくて……抱え上げた小柄な身体はガタガタと大きく震えていた。
(全部俺のせいだ)
あの河原は夜になると野生の山犬の溜まり場になる。
下手したらタチの悪い山賊に見つかる可能性だってあったのに……。俺があんな約束をさえしなければ、あの時ひまりに口付けさえしなければ。
ーーひまりのことを、何故知っていた。
ひまりを信長様に預けた後、
俺は築姫に問いただした。
泣きながら、俺が城で寝ているひまりに口付けをしていたのを見て調べさせ、ずっと後をつけていた事を白状した。
築姫に存在を知られたのも。
熱を出したのも。
山犬に襲われたのも。
「結局……俺が蒔いた種だ」
信長様に言われた意味が、今なら理解出来る。
(……そろそろ時間だ)
俺は立ち上がり一瞬悩んだ後、耳飾りを手に取り懐にしまうと、広間に向かって歩き出す。
大名が直々に迎えに来てるという事は、つまり今日大方話をつける予定だろう。予定外なことに内心焦りを感じつつも、何処か冷静な自分もいて……。
(まずは、向こうの話を聞いた後、こっちの条件も提示して……)
広間に着く間、そんなことを考えていると家臣達が血相をかえて走って来る姿が見え、俺は足を止める。
「何かあったのか?」
「家康様っ!今、城の者から連絡が入り至急大名の方々と安土城へ来るようにとっ!」
「何でも、信長様が姫様のお披露目を城で行うからと、申しているようで……」
俺はその言葉に眉をひそめる。
(いい加減腹を括れ、ってことか)
俺は広間に居る大名に事を伝えると、急いで安土城へと向かった。