第152章 あなたにもう一度後日談(5)一日目の夜 前編
一体どうゆう意味だろう??
「ほら、早く店まで案内してよ〜。花代、はずむから」
「あ、あのっ!よく解りませんが人を待っている最中なので……」
しつこく言い寄ってくる男の人。少し強めな声で離して下さい!と、お願いしようとした時。
「言っとくけど……あんたが逆立ちしようが、何しようが一生払えないから」
「い、家康っ!!」
「……この子の花代払えるの、俺だけだし」
「けっ!男つきかよっ!」
男の人は吐き捨てるように、そう叫ぶと私の腕を離した。
「……目を離すとすぐ……ほら、行くよ」
家康は背中を向け無言で歩き始める。
「も、もしかして怒ってる?」
「怒ってない」
家康はそう言いつつも、明らかに声は不機嫌だし手も繋いでくれない。
「……ごめんなさい」
私は足を止め小さな声で謝り、俯く。
今日は折角のデート。
だから絶対に喧嘩したくない。
着物をぎゅっ、と握り……振り返った家康に向かって、勝手に移動した事をちゃんと反省した。
「……バカ。そうゆう事じゃな……」
「あらぁん♡さっきの旦那じゃない♡」
(え……)
突然横から綺麗な女の人が現れ、家康の腕に手を絡めた。
髪から垂れ下がる後れ毛。胸元が見えそうな程大きく開いた、襟元。色艶がある紅い唇。さっき見た芸者さんとは雰囲気が全然違う。
「やっぱり戻って来て下さったのですねぇ♡」
「ちょっ!触るなって!」
むすっ。
私はクルッと背を向け歩き出す。
「ちょっ!ひまりっ!!」
名前を呼ばれても振り返らずに唇をぎゅっと噛み、歩く速度を早め溢れそうになる涙を堪える。
「離せよっ!……ま、待ってひまり、一人だと危ないからっ!!」
(家康のばかっ!待たせといて、自分はあんな綺麗な人と……!!)
もう、知らない!気づいたら私は華やかな町から外れ、静かな河原に来ていた。