第152章 あなたにもう一度後日談(5)一日目の夜 前編
都の夜は眠らない。
暗くなってからより華やかさを増し、店の前に赤い提灯が灯され綺麗な着物を着た女の人が、行き交う男の人に声を掛け手招きをする。
寒さなんて全く気にせず肩を惜しげもなく晒し、その姿に女の私でさえ思わずドキドキしてしまう。
(綺麗な人ばっかり……皆んな、芸者さんなのかな?)
だらりとした帯結び。
おこぼを履き、綺麗に結い上げた髪に華やかな簪。
まさに私の知る芸者さんのイメージそのもの。
(家康、まだかな……?)
まだそれ程経っていないのに、その雰囲気に何だか落ち着かず、私はソワソワして一人歌舞伎座の前で待っていた。
見物が終わった後に家康から、席を取ってくれた知り合いを呼んでくるから少しだけ待っていて欲しいと言われ……今、まさにその人と家康が出てくるのを待っている最中。
一緒に着いて行きたいって言ったら、すぐだから待ってて、って言われた。それなら、少し町の様子見て来ても良い?って聞いたら、夜は危ないから絶対に駄目!って凄い剣幕で言われちゃったから大人しく待つことに。
「お客さぁん〜……」
「あらぁ〜イイ男〜」
(や、やっぱり落ち着かない!ちょっとぐらい離れても大丈夫だよね?)
目の前にあるお店から少し遠ざかるように移動して、歌舞伎座の入り口から少し離れ、見通しの良い場所に着いた瞬間……。
「君、可愛いねぇ〜。何処のお座敷の子?花代いくら?」
「へっ…!?お座敷?花代?」
突然、男の人に腕を掴まれ私はすっ飛んだような声を上げる。