第20章 はぐれた心の先に…(11)
「でもっ!明日になったら家康はっ……築姫様とっ……正式に……」
川が冷たくても狼に襲われても涙は出なかったのに、家康のことになるとこんなにも簡単に溢れてくる。その前にどうしても伝えたい事があるから、と訴える私に信長様は盛大なため息を吐く。
「行ってどうする?自分の想いを伝え、家康に婚姻を結ぶのは辞めろ、とでも言うのか?」
私はその言葉に躊躇いながらも、
首を横に振る。
この世界で過ごすうちに、自分の意思なんて関係ないことが沢山あって、何かを得るために、時には色んなことを犠牲にしないといけない事を知った。
でも……
だからこそ、家康に伝えたい。
「今までいっぱい我慢して、耐えて、自分を犠牲にして、怪我を沢山負って……」
それなのに、まだ一人で全部抱え込んで……
「一人じゃないよって……頼れる仲間も信用出来る人も、家康の近くには沢山居るよって……」
頼ることは決して弱さじゃない、
強さでもあることを……
「もっと自分を大事にして欲しい。家康が辛いのが、家康が幸せじゃないのが……」
何よりも……
「……私にとって、一番辛いから」
だから、私の我儘を全部伝えにいきます。
そう私が言うと、信長様は驚いたように目を見開く。
そして
そのまま
私の背中に腕を回し引き寄せた。
「の、信長様っ!?」
突然抱き締められ混乱する私の頭を、信長様はそっと自分の胸に押し付ける。
「……それを家康に伝える場を明日、与えてやる」
(え………?)
ただし、一つ条件がある。
「……ひまり」
回された腕がより一層きつくなって……
「……俺のものになれ」
いつも冷静な声が、微かに熱を帯びている気がした。