第147章 あなたにもう一度後日談(4)中編
白い絨毯の草原を駆け抜け、森の中へと進む。
はしゃぐ孫達を前に乗せ、手綱を持った手を一度緩めると馬を止めた。
「信長様!兎が沢山おる!」
群れになり跳ねる白い小動物に、竹千代は指を向け声を上げる。
「冬の時期は餌が少ない。隠れ穴から出て探しておるのだろう」
「うさ、ぎたん。ぴょん!」
頭に手を置きウサギの耳に見立て真似をする姿に堪らなくなり、俺は自分の顔の近くまで時姫を抱き上げ……心中で悶えた。
(た、堪らんっ)
時姫の頬をすり寄せ、
柔らかい感触を堪能する。
「じ、じ!おりりゅ」
二人を馬から降ろし、俺は懐から箱を取り出す。小さな手のひらに色々とりどりの金平糖を乗せ……三人同時に口に運んだ。
「……甘いっ!信長様ありがとうございます!」
「おいちぃ♡あーと!」
「っ……///少しここでゆっくりして行くか」
城から持ってきた休憩用の茣蓙を引き、兎を追いかける二人の姿を見つめる。
(一日では、足りないぐらいだな)
俺は舌で金平糖をコロリと転がし、ふとある策を思いつく。孫との時間を堪能出来るよう……家康に大量に仕事を与え、暫くは城に戻れなくしてやろう。
しかし、冬季はあまり仕事がないのも事実……二日の間に探しておく必要がある。俺があの手この手を考え、御殿に居る期間を引き延ばす作戦を立てておると、二人は突然こっちに駆け寄った。
「信長様も、一緒に!」
「じじ、いっちょ!」
「わ、解ったから、そんなに引っ張るでない」
顔がにやけるのを必死に耐え、久々に鬼ごっことやらをして小さき背中を夢中で追いかける。
「時姫〜捕まえたぞっ!」
「うっ……っ…」
「す、すまぬ!も、もう一回鬼をしてやるから泣くのは止めてくれっ」
「きゃっ♡じじ、おにっ!」
一瞬潤んだ瞳は気のせいだったのであろうか……時姫は再び笑い声を上げ、ぴょんぴょんとウサギのように跳ねて行く。
(ま、まさか策ではなかろうな……)
ひまりに瓜二つな顔。
しかし家康の血が混じっているのも事実だ。
一瞬脳裏に浮かんだ、成長した天邪鬼な時姫の姿。俺は頭を振り、今度は竹千代の背を追いかけた。