第146章 あなたにもう一度後日談(4)前編
「はっ……はぁっ」
息を切らす小さき肩に手を置く。竹千代は額の汗を手の甲で拭い、その場に座り込んだ。俺は膝を屈折して竹千代と目線を合わすと口を動かす。
「父親のようになりたければ、本気で守りたいモノを見つけろ。貴様なら大丈夫だ。……必ず強くなる」
筋も良い、気合いも良い。あとは自分にしか無いものを見つけることが必要。
「俺のようになりたければ、それ以上のモノを見つける必要があるがな」
「は、はいっ!」
そう言うと、竹千代は一礼をし返事をした。
「稽古はもう終いだ。昼から出掛ける。準備をしてこい」
駆け出した背を見送った後、俺は姫の待つ部屋へと軽やかに足を運び……女中の膝の上で目をぱちぱちさせた、愛らしい姫。
「……コホンッ!ひまりに頼まれておるからな、後は俺が見る。下がれ」
「は、はい」
女中が部屋から出ていくのを確認すると、俺は振り返り、ちょこんと座る時姫を抱きかかえ……頬すり合わせる。
「じぃじが、遊んでやるからのぉ♡」
鼻の下が伸びるのを自分でも自覚している。しかし、この小さき姫の可愛らしさには、居ても立っても居られなくなるものだ。
「じ、じ???」
キョトンと首を傾げる時姫を、俺は大事に大事に膝の上に乗せた。