第20章 はぐれた心の先に…(11)
私は夢を見た。
あの日の夢を___
月灯りに照らされた、小さな花を摘みながら。
気づいた気持ち。それをどう伝えたら良いのか解らなくて……
ムズムズするような。
ほっこり温まるような。
そんな気持ちに、何だかそわそわしていた。
肩に掛かった家康の香りに、胸がドキドキして……嬉しいような切ないような不思議な感じに戸惑う。
ーー似合うかな?
だから私は摘んだ花を髪飾りにして、落ち着かない心を少し誤魔化してみる。
なのに、突然背中に伝わった家康の鼓動の音とぬくもり。それが、一気に私の気持ちを溢れさす。
ーー……前、向いてて。
耳元で囁かれた家康の声は、
凄く切ない感じがして……
思わず振り返る。
目の前に悲しみの色を浮かべた、家康の瞳。
ーー私っ、家康のことっ……。
想いが溢れた言葉は、途中で止まる。家康の瞳がさっきよりも悲しく揺れたから……。
そこに気持ちを全部、置いてきてしまった。
(……こ…こは)
見覚えのある天井。
私はゆっくりと目線だけ横に向ける。
「……気がついたか」
「信長……様…どうして私は城に…」
確か私、狼に襲われて……
少しずつ動き出した頭で、記憶を辿っていく。
(それで……)
ハッとして私は起き上がる。その瞬間、ズキッと嫌な痛みが頭に走る。
「……やっと熱が下がった所だ。大人しく寝てろ」
「家康が家康が私を助けてくれてっ…それから……」
確かにあの時、私は家康の手に触れた。それから、身体が急に怠くなって……
「……高熱を出して意識を失った貴様を、家康は俺に預けた。こうなったのは全部自分の所為だと言ってな」
「……違いますっ!私が勝手にっ」
家康は何も悪くない。
きっとまた、自分を責めて……
ーー明日にはお父様が迎えに来て正式に話が決まれば……。
築姫の言葉がふと頭に過ぎる。
「あれから…あの夜から何日経ったのですかっ!?」
「丸一日だ」
私の頭が一気に真っ白になる。
行かなきゃ。
今すぐにでも家康の所に。
布団を跳ねのけ立ち上がろうとする私を、
信長様の手が止める。
「築姫の迎えはあの雨で遅れ、明日に延期になった」
私の心を読んだかのように、信長様は落ち着いた声でそう言うと、そっと布団を被せてくれる。