第20章 はぐれた心の先に…(11)
長い時間。川につかっていた足は殆ど感覚をなくしていて、冷たくなった体は更に雨に打たれ、どんどん体温を奪っていく。
「…っは……っはぁ…」
それでも必死に足を動かし森へ逃げ込むと、今度はぬかるんだ土が邪魔をして思うように走れない。
(このままじゃ、追いつかれるっ!)
後ろから追いかけてくる足音と雨の音が混ざり合って、いまいち距離感が掴めなくて……。
(怖いっ!!)
それが余計に恐怖心を煽り、
身体が思うように動かなくなる。
「…っ…はぁ……あっ!!」
バシャッ!
限界が近づいた足はついに上がらなくなって、私はそのまま地面の上に倒れ込む。
「こ……ない…で」
暗闇に浮かぶ、黄色い光。
ガッ………ウゥゥゥゥ……。
獣のような唸り声が、ザーッという雨音より先に聞こえる。
一匹だけかと思ったのに、黄色く光る目の数はいつの間にか増えていて……ガクガク震える足に、何とか力を振り絞って立ち上がると、咄嗟に落ちていた木を掴む。
「…こ…こないでっ!!!」
ありったけの勇気を声に込める。
けれど、姿を現した狼は群れになって私を囲むように近づき……
ガッ……グッ…ウゥゥゥ!!
そのうちの一匹が、
私に向かって高く飛んだ。
「いやぁあぁぁああっ!!」
シュッ……
目を瞑った瞬間…
微かに耳に届いた、
風を切るような音。
それと
「ひまりっ!」
一番聞きたかった、家康の声だった。
「家康っ!!」
ガウッゥゥゥ……。
駆け寄ろうとする私の前を、また別の狼が立ち塞ぐ。
家康は馬に乗ったまま、弓の的を狼に向けると一直線に放ち、次々と命中させる。
「ひまりっ!」
「家康っ!!」
家康の手が伸びてくる。
ずっと会いたくて…
ずっと声が聞きたくて…
ずっと触れたかった手に
私は必死に手を伸ばした。