第19章 はぐれた心の先に…(10)
「一体遅くに何の騒ぎですのっ!」
俺が玄関に着く直前、騒ぎ声を聞いた築姫が女中二人を引き連れ、不機嫌そうに廊下から姿を現わす。
「……どうやら、ひまり居ないようだな」
その言葉に一気に身体中の血の気が引く。
「居ないって……ひまりにっ、一体なにがっ!!」
「……使いに行ったきり、戻ってない」
「なっ……!!!今すぐ馬を……馬を用意しろっ!」
家臣に向かってそう告げ、走り出そうとする俺の腕を信長様は掴む。
「あてもなく探しても無駄だ……」
「何、こんな時に呑気なことっ!!」
「それよりもだ……そこの青い顔した女に聞く方が早い」
信長様の目線を追う。
ガタガタと肩を震わせる築姫に、俺は近づく。
「……ひまりは何処だ」
自分の声とは思えない程、俺の口から殺意のこもった感情が出る。
「ひまりは何処だ、と聞いてるっ!!」
「わ…私たちは何も……。あ、…あの女が築姫様に嫉妬してっ」
「そ、そうですっ!姫様のことを、う、嘘付き呼ばわりするからっ」
築姫を庇うように女中は、たどたどしく話す。
「嫉妬……嘘、だと……」
「そ、そもそも何故、家康様があの女のことをっ」
「昨夜、姫様とその…ち、契りを交わされたのでしょう?それなのにあの女が嘘だって言うから、ちょっと揉めただけでっ」
話の意図が薄っすら見えた俺は、青ざめて俯いたままの女に更にゆっくりと近づく。
「な、何を言ってるの、わ、私はち、契りを交わしたなんて一言も言ってないわ」
「えっ……でも、確かに姫様そうおしゃって」
(こんな奴らに……)
(ひまりは……)
一気に湧き出る怒りを
壁にぶつける
ドンッ!!
「俺が抱きたいのは」
(俺が欲しいのは)
「……ひまり、だけだっ!!」
俺は急いで河原に向かう。