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イケメン戦国〜天邪鬼な君へ〜

第18章 はぐれた心の先に…(9)




「私が一旦国に帰る前に一度だけと、あんなに激しく求めてきて下さって……」

「昨晩、築姫様のお姿が見えないとは思っておりましたがっ」

「家康様の所にいらっしゃったのですねっ!」


女中二人は頬を染め顔を合わせながら、恥じらうような声をあげる。

耳を塞ぎたいのに、身体が別の人のようになったみたいに、動かなくなる。




「あの甘く囁いた声……」






(やめ……て……)







「あの逞しい腕……」






(き……きたく…ない)







「あの熱い瞳……」







(それ以上っ! 言わないでっ!!!)






「……絹のように滑らかな肌に、蕩けそうになりましたわ」







やっと動いた手が耳を塞ぐ前に、
ピタリと止まる。


最後の言葉を聞いた瞬間、握りしめたままの手がさっきと比べれないぐらいガタガタと震え出す……






「……う…そっ」






傷だらけの家康の肌が、絹のように滑らかなんて。






「な…んにも…」






包帯を変えるときに見えた身体には、古い痣や傷も沢山あって。





「……しら……ないの…に」





命が危なくなるぐらい大怪我だったのに、絶対痛いはずなのに、平気な顔して。





「何にも知らないのにっ!そんな嘘、どうして平気でつけるのっ!!」






(家康の身体と心には、想像できないぐらいの傷が沢山残ってるのに!!)




頭に血が上ったように熱くなる。
私は感情をぶつけるように、築姫を睨みつけた。


「なっ……!」

「築姫様に何と無礼なっ!!」


睨み合う私達の間に、女中二人が割って入る。掴まれかけた腕を振りきろうとした瞬間、握っていた耳飾りが宙を舞う。



微かな水の音が響いて、

手の中にあるはずの物が無いことに気づく。

私は咄嗟に二人を突き飛ばし、

膝の高さまである川の中に足を入れる。




「っ!……約束したのにっ」






ーー失くさないでよ。





そう、家康と約束したのに。




「築姫様っ!あのままでは…っ」

「放っておきなさい。すぐ諦めて出てくるに決まってるわ……行くわよ」


……馬鹿な女。


水の冷たさに、足の感覚がなくなっていくのを感じながら、鏡のように映る月がゆらゆらと揺れた。




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