第18章 はぐれた心の先に…(9)
振り返った私の前に、
三人の女の人が立ち塞がる。
「やっぱりあなた、家康様を慕ってらっしゃるのね?」
(この人、昨日家康と一緒に居た……)
目の前の人が家康の婚約者だと解り、
思わず私は一歩後ろへと下がる。
(何で、私のこと……)
まるで全部知っているかのような口振りに、私は警戒心を募らす。そんな私の様子を嘲笑うかのようにその人は口の端をつり上げ、腰元から素早く扇子を取り出した。
「私、築姫と申します」
そしてゆっくりと片手で扇子を開くと、そのまま口元に当て名乗った。その優雅な動きから育ちの良いお姫様、なのがすぐに解る。
「通して下さい」
声が震えないように、
手の中の耳飾りをギュッと握りしめる。
「あなた、信長様の寵愛を受けてらっしゃるのでしょう?その上まだ、家康様までなんて…とんだ毒女ですわね」
「毒女なんて……私が好きなのは家康ただ一人だけですっ!」
「なっ、築姫様に何という口の利き方っ!」
私が声を荒げると付き人らしき二人の女中が庇うように、一歩前へと踏み出す。しかし、築姫はそれを止めるように扇子で二人の前を塞ぐと私に視線を向けた。
「まぁ、良いですわ。家康様にはまだ言ってないのだけれど、明日私の迎えにお父様が直々に来て、正式に話を進めることになってるの。そしたらあなたなんか、二度と徳川家の敷居を跨げなくして差し上げる」
家康様は私のものよ!
その蛇が蛙を捕まえるような瞳に、
私は一瞬怯みそうになる。
「……家康を慕う理由を教えて下さい」
「あら?そんな事聞いてどうなさるの?諦める理由にでもなるのかしら?」
自分でも何でそんな事を聞いたのか、解らない。
ただ単純に知りたかった……
私の知っている家康を、
築姫も知っていて、
同じ想いを抱いているのかを。
「……答えて下さい」
「そんなの、あの美しいお姿とお家柄に決まってますわ」
「……っ!」
しれっとした態度で築姫が答える。その理由に私は一気に怒りが込み上げそうになるのを必死に抑えた。
「それはそうと…」
築姫は扇子をひらひらと仰ぎながら、
嫌な笑みを浮かべ言葉を続ける。
「昨夜の家康様は本当に素敵だったわ〜」
その言葉に思わず私の体がビクッと反応する。