第18章 はぐれた心の先に…(9)
呉服店の女将さんとご主人に見送られ、店を出る頃には、辺りはすでに赤く染まり始めていた。
(もう帰らないと……)
お城の皆に心配をかける訳にはいかない。
そう頭では考えながらも私の足は人混みから外れ、静かな場所を求めてフラフラと進んでいく。
家康の気持ちを知った私は、おぼつかない心をどうして良いのか解らなくて、気がつくと……
人けのない河原に着いていた。
私は近くにあった石の上に、腰を下ろすと巾着から耳飾りを取り出す。
(ずっと、見ないようにしてた)
お城に戻ってからこれを見る度、
涙が止まらなくて……
とても身につける気になれなくて……
でも捨てることも手放すことも出来ないまま、ずっと持ち歩いてた。
ーー……見るな。
昨日、二人の姿を見た時は胸が張り裂けそうで……まともに立つ事も出来ない私の視界を、信長様が塞いでくれた。秀吉さんと三成君は、何度も部屋に足を運んでくれて、他愛のない話をしてくれた。政宗は私の大好物の料理を沢山作ってくれて……光秀さんは忙しいみたいで一度も会えなかったけど、元気にしてるか?って短い文を送ってくれた。
(皆が、支えてくれたから……)
私は、少しずつ前に進めた。
でも、家康は……
きっと、一人で苦しんでる。
また、全部自分で背負いこんで
自分ばっかり責めて……
ーーもう御殿に来なくていい。
一番大事なこと、
私は忘れてた……
家康が真っ直ぐ向いて、
冷たく突き放す時は、
相手を傷つける自分を…
嘘を付く自分を…
許せない時だ。
(……行かなきゃ)
私の気持ちを伝えに、
家康の本当の気持ちを聞きに。
そして、何よりも
「今すぐ、家康に会いたい」
ジャリッ!
私が立ち上がるのと、背後から誰かが砂利を踏みつける音がしたのは、ほぼ同時だった。