第17章 はぐれた心の先に…(8)
夜の闇に紛れ二つの影が、
茂みの中で揺れる。
ざわざわ草木が騒がしくなったかと思えば、一瞬でシーンとあたりを静寂に包んだ。
「築姫様、あの女の正体が解りました」
忍びの格好をした女。
覆面を口元だけ外しその場に膝まずく。
「……名はひまり。針子ではなく、織田家ゆかりの姫だそうです」
「ふーん。まぁ、ゆかりの姫様なら大した身分ではないわね……で、家康様との関係は?」
「はい。その件なのですが、どうやら家康様ではなく、信長様の寵愛を受けているようで……」
「そんなわけないわっ!針子って嘘までついてっ、それに私はこの目で見たのよっ!家康様があの女にっ……」
女は記憶を鮮明に蘇らせ、ギリっと唇を噛み締めながら声を盛大に荒げる。脳裏に焼き付いた腹ただしい光景。家康が想いを寄せるように自身の唇を寄せる姿を見たのだ。
ガリッ!!
綺麗な顔が一気に醜く歪み、
まるで鬼のような形相が闇に浮かぶ。
「も、申し訳ありません。城内も御殿の中も警備が厳しくあまり有力な情報がっ…!」
「もう良いわっ!明日会って、直接本人に聞くからっ!!」
女はそう言って、
御殿がある方へと踵を返す。
(明後日には、お父様が迎えに来て正式に話を進める。それまでに、家康様は私のものだって、釘を刺しておかないと)
再びギリっと爪を噛むと、
ますます女の顔は醜く歪んだ。