第16章 はぐれた心の先に…(7)
「……あの馬鹿も、別で動いておるのだろう?」
俺のその言葉に秀吉は顔を上げ、静かに頷く。
「辞めさせましょうか?」
「放っておけ。自分で如何にかしろと言ったのはそもそも俺だ」
今はひまりを守る事を優先して、
せいぜい様子見程度だろう。
「後は、あの女が……」
面倒な事を起さず、
黙って国へ戻りさえすれば……
ーー信長様も…家康も…、優しい方だと、私は思っています。
そう言ったひまりの顔が鮮明に頭に浮かぶ。甘っちょろい事ばかり抜かす癖に、変に強情で直球で真っ直ぐで温かい心の持主。
ひまりが家康を慕う気持ちは全く理解出来んが、家康がひまりに惚れる理由はまだ理解出来る。
フッ、と息を吐く。
「……光秀にそのまま待機して、指示を待てと伝えろ」
「承知いたしました」
秀吉は控えていた家臣に耳打ちをすると、俺に一礼して部屋から姿を消した。
ぐずぐずしている間に……
「……俺に奪われるぞ」
その場に居ない奴に向けた、俺の冗談か本気か判断できぬような独り言は……静まり返った部屋によく響いた。