第15章 はぐれた心の先に…(6)
私は息を軽く吸ってから、
振り返った信長様に視線を向ける。
「信長様も…家康も…優しい方だと、私は思っています」
最初は素っ気なくて、冷たい表情しか知らなくて、家康の中の優しさに私は気付く事が出来なかった。でも、一緒に過ごす内にどんどんその言葉の裏の、優しさが見えるようになって……
あの花畑の夜。
こんなにも、
好きになってたんだって……
気づいた。
「……ひまり」
私の名前を呼ぶ信長様の表情が、
一瞬だけ家康と重なる。
「家康様〜〜」
目が熱くなって視界がボヤけそうになった時、突然甲高い声が廊下に響く。
私と信長様はその声に誘われるように、振り返ると……
着物を裾を持ち上げ小走りする女の人と、その前を歩く家康の姿が見えた。
「っ………」
声にならない言葉が出て、枯れたと思っていた涙が一気に頬を滑り落ちる。
(あの人が……家康のっ……)
一瞬で悟り、足が震えだす。
信長様は今にも崩れ落ちそうな
私の身体を引き寄せ、
木の陰に身を隠すと……
「……見るな」
視界を全て奪うように
声を殺して泣く私の頭を、
自分の胸に押し付けた。