第13章 はぐれた心の先に…(4)
信長様や他の皆もあえて今まで何も聞かず、普通に接してくれた。それはきっと、私が聞けるような状態じゃなかったからだ。
私は震える手をギュッと握りしめ、政宗を見る。
「私は大丈夫だから、話して……」
まるで自分に言い聞かせるように私が言うと、政宗は重たそうな口を開く……
今日から家康の元に、顔合わせとしてとある国の姫が来ている事。家康がその姫様と婚約して、同盟を結ぼうとしている事を説明してくれた。
「お前が見た大量の文の送り主は、殆どがその姫さんだったらしい…」
「そんなっ……同盟のためなんて……」
私はそこまで言って、言葉を飲み込む。人質として過ごした幼少時代の話をしてくれた時。
ーーこの乱世では、よくある話。
家康はそう言ってた。
戦って、戦って、武功をあげたり、同盟を組んだり、婚姻まで結ぶ必要があるなんて……
「私にはできないっ……」
「……ひまり」
「そんなんじゃ、いつになったら家康はっ……っ…!」
幸せになれるの?
また、涙が出そうになって歯を食いしばる。家康が選んだ道を止める権利なんて、そもそも私にはない。
佐助君が言ってた、次にワームホールが現れるのは3ヶ月後だって……ここの暮らし慣れて、家康と一緒に居てそんな事すっかり忘れていた。
(……もう残り、二ヶ月しかない)
だったら、私は……
「取り乱してごめんねっ。話してくれてありがとう……嫌な役、政宗にさせちゃったね」
「気にするな。お前が家康の事好きな事ぐらい、とっくに気づいてた……予想以上だったけどな」
政宗はそう言って、からかうように私の頭を軽く叩く。
「ついでに家康も、な……」
叩きながら呟いた政宗の声は、廊下を通り過ぎる女中さんの笑い声に紛れて、私の耳には届かなかった。