第91章 あなたにもう一度(7)
「もしかして、文……?」
綺麗に折り畳まれた紙を開くと、其処には、見慣れた綺麗な字が綴られていて……私は全てを読み終わり、しばらく立ち尽くした後、それを仕舞い部屋に向かう。
「母上!!昨晩姿が見当たらなくて、探しておった!!」
「ごめんね!ちょっと探し物してたらそのまま寝ちゃってて……」
私は走り寄る竹千代を抱きしめ、心の中で謝る。
(本当にごめんね……心配かけて……)
「……ねぇ、竹千代?父上と何を約束したの?」
「約束?……あっ!あれはっ!……しかし、父上から母上には内緒だと言われておるから……」
竹千代が困ったように眉間に皺を寄せ、口籠るのを見て私は軽く息を吐く。
「そっかぁ……内緒なら仕方ないよねっ!困らせて、ごめんね?」
「しかし母上……何故、約束の事を知っておるのだ?」
「……何でかな?ふふっ、私も内緒!」
私は一瞬出そうになる涙を引っ込め、もう一度竹千代を力強く抱き締めると……。
大好きだよ。
と、だけ伝えた。
そして簡単に身支度を済ませ、家康宛に文を書きそれを竹千代に渡す。少ない荷物を持ち、時姫を抱っこして立ち上がった。
「……少し用事に出るからその間、天女さんの言うことを良く聞いて、待っていてね」
元気よく頷く竹千代の頭を撫で、私は女中頭さんの部屋に向かい、少し出掛ける事を伝え時姫をお願いする。
最後に時姫をぎゅっと抱き締め、首に掛けてあるお守りが入っている巾着にある物を入れ、私は城を後にした。