第91章 あなたにもう一度(7)
ドンドンドンドンッ!
「ひまり!!二人で話そう!!どんな話でも聞くし、不安な事があるなら全部話す!!!」
「もう遅いよっ!!!!!」
背中に扉を叩く衝撃が伝わり、私は全身の力で押し返すように手で押さえ、扉の向こう側に居る家康に向かって叫ぶ。
「放っておいて!今は、一人で居たいのっ!!今は家康と一緒に居たくないのっ!!」
自分の涙声が真っ暗な物置の部屋に、よく響く。壊れそうな心にまでそれが響いて、今度は溢れた涙をすすり上げる小さな音に変わる。
「ひまり……」
私から出た拒絶の言葉に、揺れていた扉がピタリと止まり……家康が私の名前を呟くのが、微かに耳に届いた。
(こんなに近くに居るのに……遠く感じる……)
私達を隔てた一枚の扉。
それが今、私達二人の間に出来た壁に思えて……悲しい。
(何で、こんな事になったの……?)
そう、思った瞬間……。
「……っく…っあぁぁぁっ…!!!」
何かが切れたように力が入らなくなって、ズルズルとその場に崩れ何年か振りに、私は声を上げて泣き叫んだ。
母親になって、自分なりに強くなれたと思ってた。でも違う……私はやっぱり弱い。
前みたいに甘え方を忘れ、家康の胸の中で本音が言えなくなって……本当はもっと竹千代と一緒に居たい。家族四人で一緒に沢山思い出作って、沢山笑って過ごしたい。
家康の口からちゃんと本当の話を聞きたい。
(いつから……私は変わってしまったの……?)
今は、全てが中途半端だった……。