第90章 あなたにもう一度(6)
「や、やめて下さいっ!」
「いえ、そんなフラついた足元では不安でしょうから私がお部屋までお連れして……」
「……そんな、必要はない」
俺は言い寄る男の背後に回り、低い声を出すと肩を掴みひまりから引き離す。
(……こいつ、確かやたらとひまりに酒を進めていた大名の家臣)
顔だけしっかり覚えた後、思いっきり掴んだ肩を引き、男の体を廊下の上に放り投げる。
「……ささっと宴に戻れ。二度とひまりに近づかないなら、今回は見過ごす」
それとも今すぐ死にたい?
俺は目を細め尻餅をつき、青い顔を浮かべる男を上から見下ろす。すると酔いが一気に冷めたのか、凄みが効いたのか男は素早く立ち上がった。
「い、家康様!し、失礼します!」
一目散に男が走り去った後、今度はひまりの腕を掴み部屋まで連れていく。
「い、家康!離して!自分で戻れるからっ!」
「……また、戻る最中に言い寄られたらどうすんの?」
「さっきのは、たまたまでっもう大丈夫だよっ!!」
(いっつもそうやって……!)
俺はひまりの事になると、一瞬で見えなくなる。
一切見えなくなり、自分を見失い、感情だけが突き抜けて……不安だけが尽きない。