第90章 あなたにもう一度(6)
俺は立ち上がり、ひまりの側に移動すると、盃を持つ手を掴む。
「ひまり、もういいから部屋に戻って」
すると何故か肩をビクッと震わせ、視線を俺に合わせず黙って頷く。
「……では、失礼します」
すると余所余所しくそう言って、ひまりは一礼しその場から姿を消した。
(……何か様子が可笑しい)
明らかに俺を避けているような態度を感じ、しばらく閉まった襖をじっと見ていると、背後から肩を叩かれる。
「……暫くそっと、しといてやれ」
後で様子を見て来てやる。
まるで事情を知っているかのような政宗さんの口振りに、俺は妙に胸が騒ぐ。
「……一体、何があったんですか?」
「お前が原因だ。後でしっかり話聞いてやれ」
俺の胸は更に騒つく。
(今朝までは普通に笑っていたし、特に変わった様子も無かった……)
有るとしたら、その後……?
気になって宴会どころじゃなくなり、襖に手を掛け俺は飛び出す。
「おいっ!家康!」
政宗さんの制止する声を振り切り、俺は廊下に出る。
しかし既に姿はなく、部屋がある方に向かって駆け出すのとほぼ同時に、微かにひまりの声が聞こえ、曲がり角の前に二つの影が見えた。