第88章 あなたにもう一度(4)
トントントン……。
台所に包丁の規則正しい音が響く。
「手際良くなったな」
「ふふっ……師匠が良かったからね!」
私は政宗と一緒に、今夜開かれる宴で振る舞う料理の仕込みをしていた。私達の他にも台所には沢山人が居て、皆んな黙々と手を動かし各自で作業をしている。
(……それにしても凄い量)
私は手を止め、横目で台の上に積まれた材料を見る。
そこには今にも崩れ落ちそうな数の野菜や魚、果物……。
(……残念だけど、レシピ教えて貰うのはまた今度にしようかな?)
私は政宗に指示を貰い、次々と作業を進めていく。
(確か来週も会合の後に、宴を開くって言ってたよね?)
家康は武功を上げ出世する度に、私が知っている偉大な「徳川家康」に近づいていく……。最近は武将として、戦国大名として名前も広がり、その証拠にこうやって宴会を開く事が日に日に多くなってきていた。
(これから家康はどんどん忙しくなって、一緒に過ごせる時間も減っていくのかもしれない)
竹千代との時間のように。
思わず作業の手を止めたまま、物思いにふけっていると、隣に居る政宗に頭をコツンと拳で押され、私は顔を上げる。
「何だ、浮かない顔して?」
「……ちょっと考え事してて……全然大した事じゃないんだけどねっ!」
心配かけたくなくて私はそう言って無理やり笑顔を作ると、政宗はやれやれと言った表情で再び調理を始めた。