第87章 あなたにもう一度(3)
「凄い、素敵な人だったね!……でもどうして竹千代の教育係に志願してくれたの?」
私は部屋に戻って早々に疑問を口にする。一見話をしたところ、特にこの徳川家と親族関係でも無さそうだったし……。
(普通なら、身内の人から選んだりするよね?)
あまり歴史が得意ではなかったから、細かい事は解らないけど。
何となくそんな気がして聞いてみると、家康は少し気まずそうな表情を浮かべる。
「……実は俺も志願してきた理由は知らない。ただ……あの人は俺の……」
「……俺の??」
何故か歯切れ悪そうに途中で言葉を遮り、首を傾げる私に理由は今度聞いておくからと言って……家康は話題を切り替えた。
「それより、ひまり。明後日の大名達が集まる宴の手伝い、お願い出来る?」
「う、うんっ。もちろん、大丈夫だよ!確か政宗も来てくれるんだよね?」
時間があったら、この前作ってきてくれたケーキのレシピを教えて貰いたいな、と私が言うと、家康は昼前には政宗が来る予定になっている事を、教えてくれる。
「……酒も入る宴だから、なるべく俺の側か政宗さんの所にでも居て」
どうして?と私が尋ねると、
多分言っても解らないから言わない。
と、また話をはぐらかされて……
(何か、さっきから誤魔化されてばかりいるような……?)
この時
微かに感じた不安が……
後に私を追い詰め……
徐々に姿を現し、
溝になって……
軋轢が生まれることに
なるなんて……。