第87章 あなたにもう一度(3)
襖を開き中に入ると深々と頭を下げる女性が居て、私は先に座る家康の隣に移動してその場で正座をする。
「天女ノ局(あまねのつぼね)と申します」
「竹千代の母のひまりと申します。この度は遠方からお越し頂き、誠にありがとうございます 」
私達は同時に顔を上げ、目が合う。
(……うわぁ……凄い綺麗な人)
40代と聞いていたから、てっきり年相応の方を想像していた私は、目の前の女性を見て驚く。
どう頑張って見ても30代前半ぐらいにしか見えない。
きちんと整った綺麗な髪と身なりが、気品で満ち溢れていて優しそうな目元とその人特有の柔らかい雰囲気が、人柄を表しているようだった。
(でも…………)
「ひまり様のお噂は聞いておりましたが、誠に可憐でお美しい方でございますね」
「えっ!……め、滅相もございません!私なんかほんと、全然っ!」
何か引っかかりを感じた時、突然そう
自分より遥かに綺麗な人に言われ、私は慌てて首を振る。
すると隣に居た家康に、本当の事だから謙遜しなくていい、と言われ私は一気に顔が熱くなる。
「ふふっ……ご夫婦仲が宜しいのもお噂通りですね」
こんな感じでしばらく他愛のない話を繰り返す内に、すっかり初対面で天女さんと打ち解けた私は、この人なら竹千代をお願い出来る……そう、心から思えた。
だけど……。
やっぱり私の心は完全に整理は出来なくて、何処かにまだ一番近くで竹千代の成長を見ていたい。
その想いは決して私の中から、離れることはなかった。