第87章 あなたにもう一度(3)
月が登り始め、途端に肌寒さを感じ……徐々に冬が近づいているのが身にしみて解る。雪が舞うにはまだ少し先。けれど今の心情を物語るように私は羽織の襟を搔き合せ、家康と一緒に広間へと向かっていた。
「……竹千代も一緒に行かなくてもいいの?」
歩きながらた尋ねる。
今から私は、竹千代の教育係になる人と対面する予定。家康は既に一度会っているみたいで、どんな人だった?と、私が聞くと物腰が柔らかそうな人。と、だけ教えてくれた。
「……今夜はもう遅いから。明日の昼間にでも会わせる」
「そっか……」
なら、明日はあまり竹千代に会えない事を知り思わず視線を爪先に落としてしまう。
「……とりあえず一度、会わせるだけだから」
まだ、当分は一緒に過ごせる。
家康はそう言って、私が少しでも安心するように頭を撫でてくれた。