第86章 あなたにもう一度(2)
家康の話を聞いてから、私は前よりも竹千代と一緒に居れる時間を、噛みしめるように過ごして居た。
「……出来た!……はい、竹千代は父上とお揃いのワサビのお守りで、時姫は私とお揃いの花のお守りだよ」
私は子供達の手に、着物のハギレで作った子供守りを渡す。
「母上!ありがとうございます!」
「ははうえ、あ、とー」
「ふふっ、どう致しまして」
時姫のは紐を付け、私はそっと首元にかけてあげる。
「二人が沢山幸せになれるように、想いを込めたからね」
そう言って後片付けをする私の所に、竹千代は珍しく甘えるように寄りかかり、着物の袖をギュッと握りしめた。
「……五つになれば母上に、あまり会えなくなると聞いた。……立派になるには必要だからと……」
「そっか……もう聞いたんだね」
私は俯く竹千代の頭をそっと撫でる。
柔らかい猫っ毛の髪は、家康の髪質に似ていて顔立ちもそっくり。まるで家康をあやしているような、不思議な気分になる。滅多に甘えてこない性格も、もしかしたら似ているのかもしれない。
「……もっと母上と居たい」
でも、父上にそんな事言ったら叱られてしまうから。
今にも泣き出しそうな竹千代。体同士を向き合わせ家康の厳しさは優しさの裏返しだと教えると、それはちゃんと解っているようで、私は息を吐き胸をなで下ろす。