第12章 はぐれた心の先に…(3)
天守___
「色々とご心配をお掛けして申し訳ありませんでした」
「……俺は何もしておらん。貴様が頭を下げる必要はない。それより用事とは何だ?」
「実は私の荷物の中に、これが……」
私は抱えていた山吹色の風呂敷を、
信長様の前に差し出す。
「あぁ、これはとある者からの礼だそうだ。貴様は気にせずそれで着物でも作ればよい」
「ですが、こんな高価な物……」
「貴様が毎晩泣いている事を話したら少しでも気が紛れるようにと、置いていった物だ。遠慮する暇があるなら、さっさとそれを仕立ててこい」
間髪入れず言われ、
私はそれ以上何も聞けなくなった。
「……それよりも、だ」
突然、信長様はスッと立ち上がると私の目の前に移動する。
「……こんな夜更けに、寝床に来るとは、俺に乗り換える気にでもなったか?」
「ち、違いますっ!!」
まるで、獲物をみるような瞳に思わず声が上擦る。慌てて後ろに下がろうとした私の顎を、信長様は素早い動作で持ち上げる。
「……赤く腫れた瞳もなかなかそそるが、どうせなら……」
「冗談はそれぐらいにして下さいっ!」
私はキッと信長様を睨みながら、
顎を持ち上げた手を振り払う。
「……少しは元気になったようだな」
そう微かに呟いた信長様は、羽織を翻し元いた場所に戻ると、何もなかったかのように書物を読み始める。
(……そう言えば前にも)
確か、家康が捕まった時…なかなか戻らないのを心配してた私にいきなり芸をやれとか言い出して……
(少し分かりづらいけど……それがきっと信長様なりの優しさなのかもしれない)
私はその場で一礼して、部屋から出る。
まだ、
気を緩めると涙が出そうになる……
けれど……
少しずつ自分に出来る事を見つけていこうと思った。
家康の御殿に居た、
最初の頃のように……