第12章 はぐれた心の先に…(3)
前の世界に居た時に、
誰かが言ってた気がする。
失恋の痛みを取るには、
新しい恋をするのが一番だって……
でも、想いを告げれないまま終わった恋の場合は……
どうしても忘れる事が出来なかったら。
どうしても涙が止まらなかったら……
(……どうしたら、いいの)
あの夜から三日間、涙が枯れることはなかった。
それぐらい、私にとって家康の存在は気づかない内に大きくなっていた。
(……もう、夜になったんだ)
私は立ち上がると、締め切った障子窓からうっすら漏れた月明かりを頼りにロウソクに火を点ける。
すると、真っ暗だった部屋にぼんやりとした灯りが燈り、その場に座り込む。
安土城に戻ってからずっと部屋に篭ったままの私を、皆はあえて一人にしてくれた。
(家康はもしかしたら、今頃……)
一番考えたくない事が頭に浮かぶと、また意思とは関係なく涙が頬を滑り落ちる。
私は自分の着物の袖を掴むと、荒っぽく涙をこするように拭う。
(………いつまでも、泣いてる訳にはいかない)
皆にこれ以上迷惑をかける訳にはいかないと思い、部屋から出ようと立ち上がった時……
見覚えのある鞄が目に入る。
(確か、今日女中さんが届けてくれたって……)
あの夜の会話が頭に浮かぶ。
「……後で、女中にひまりの荷物を届けさせます」
微かに覚えている家康の言葉。
(すぐに届けるような口振りだったから、てっきり大分前から届いていたのかと思ったけど……)
私は以前より膨らんでいる鞄に何となく違和感を感じて、チャックを開ける。
「何だろう?これ……」
カバンの中に、綺麗な風呂敷で包まれた何かが詰め込まれている。私はゆっくりとそれを取り出すと、風呂敷を解く…
(これって、反物だよね)
薄黄色の色地に、色とりどりの花が描かれていて、肌触りも滑らかで凄く良い。素人の私から見ても、これが上等な物なのがすぐ解る。
「誰かが間違えて入れたのかな?」
誰からかも誰宛かも解らない高価な反物を、受け取る訳にはいかない。
もう一度風呂敷に反物をしまうと、私はそれを抱えたまま、信長様の居る部屋に向かった。