第11章 はぐれた心の先に…(2)
「うわぁ……綺麗」
ひまりは嬉しそうに、月明かりに照らされた花畑に駆け寄る。
(……今夜は少し冷える)
時々頬を掠める冷たい風は、
身体の熱を奪い始める。
俺はしゃがみ込みながら、もぞもぞと動く小さな背中を見つめ、自分の羽織を脱ぐとそっとひまりの肩に乗せた。
ひまりは一瞬驚いたように振り返り、自分の肩にかかった羽織と俺の顔を交互に見てから……
「ありがとう」
と言って、また手を動かし始める。
「ちょっとだけ待ってて!もう出来るからっ」
そう言って、ひまりは小さな花を摘みながら器用に編んでいく。
そして、ゆっくりと振り返り……
「似合うかな?」
(……っ!!)
髪に花飾りをつけたひまりの姿が、
月明かりに浮かび上がった。
ふわりと笑った顔が本当に可愛くて、
何もかも奪われそうな程、綺麗で……
「……っ!!」
気づいたら俺は、
ひまりを腕の中に引き寄せていた。
「家康っ!?//////」
「……前、向いてて」
ひまりの顔を見たら、きっと手放せなくなる……
この気持ちを全部吐き出しそうになる……
だから
(……全部ここに置いてく)
ひまりの匂いも……
ひまりの声も……
ひまりの笑顔も……
俺の気持ちも、全部ここに置いてく。
「お前の失態を何処かで知り、足を取るように婚姻を申し出るような女だ。……ひまりに何を仕掛けるか解らんぞ」
城を出る直前に会った、光秀さんの言葉が頭に過ぎる。
「どうしてっ!何でっ今、そんな事言うのっ!?」
笑顔で帰したかった。
泣かせたくなかった……
突き放したかったのは、
ひまりじゃなくて自分の心。
結局、俺はひまりを傷つける事しか出来ない。
心と反対の言葉は、簡単に出てくるくせに。
一番伝えたい言葉は全部飲み込む。
近づいてくる足音を聞きながら、
ぎりぎりまでひまりに触れていた手を、離すことは出来なかった……
さっきまで、ひまりが付けていた花飾りを拾い上げる。
まだ、微かに残るひまりの香りに
視界が一瞬だけ
霞んだ……