第78章 約束の地へ〜おまけエピローグ3〜
「家康様なら薬草を探しに行かれましたよ?」
「先ほどはお部屋に……」
私は城内をウロウロと歩き回るけど、さっきからすれ違ってばかり。
結局家康に会うことが出来ないまま……
時間だけが思いとは裏腹に、過ぎていく。
「ふぎゃぁ……」
「ごめんねっ。もうお部屋に戻ろっか」
私は小さな声で鳴き声を上げる赤ちゃんを抱き直し、部屋に向かって歩き始める。
まだ赤い小さな口がおっぱいの時間を知らせるように、ちゅぱちゅぱと動く。
(可愛いなぁ……)
手も自分の三分の一大きさしかないけど、ギュッと何かを掴むように頻りに動いていて、薄っすらと開いた綺麗な翠色の瞳が家康の面影を教えてくれた。
「ふふっ……ほんと、そっくりだね」
思わずそう言葉が溢れた時……
「誰にそっくりなの?」
フワッと懐かしい香りが鼻に届き、背中から優しいぬくもりが伝わる。
すっと伸びてきた手が、赤ちゃんを抱く私の腕に触れ……
気付いたら身体ごと包まれていた。
「……誰って?家康に決まってるでしょ?」
前を向いたまま私がそう答えると、家康は更に腕の力を入れ……
「なら、年頃になったら大変だ」
ひまりの取り合いが始まって。
「ふふっ、私は嬉しいけど?」
大好きな家康と大切な子供に愛して貰えるなんて。
私は笑いながらゆっくり振り返る。
何週間ぶりに会った家康は、眉をほんの少し潜め拗ねた顔をしていたけど、何だか以前とは少しだけ雰囲気が違う気がして、真っ直ぐ見るのが恥ずかしかった。
私は胸に頭をコツンと寄せ、家康と赤ちゃんを包み込むように身体をくっつける。
家康は赤ちゃんの顔をプニプニ指で押し、柔らかい感触に微笑みを浮かべ口元を緩ました後、今度は私の頬に触れる。
「次はひまり似の、女の子が欲しい」
絶対、お嫁にはあげないけど。
「ふふっ……なら、これからもいっぱい愛して貰わないとね?」
赤ちゃんも私も。
唇に熱いねつを感じながら、私達は何週間ぶりにお互いの気持ちに触れた。