第75章 約束の地へ 最終章 後編
「……ひまり、俺も食べてみたいから一口頂戴」
「駄目っ!……全部、私のだから」
ひまりは頬を膨らませながら、背を向ける。
「あのね、そんな大きいの一人で食べたら太るよ?」
「ふふっ、冗談だよ。この前、お仕置きされた仕返し!……はい、あ〜んっ」
ひまりが差し出す箸に口を開けようとした時、
パクっ!
「へ……?」
「み、三成君っ!?」
「……もぐっ、これがけーきと言う食べ物なんですね。甘くて美味しいでございます」
「……吐け。三成。死にたくなかったら、今すぐ出せっ!!」
俺は三成の襟元を掴み、吐き出しやすいよう思いっきり身体を横に揺さぶる。
「ちょ、ちょっと家康!まだ、いっぱいケーキあるから!み、三成君、大丈夫!?」
(こいつ絶対わざと……ひまりが使ってた箸なの解ってて……)
「けほっ……だ、大丈夫です。すいません、あまりに美味しそうに見えたのでつい食べてしまって申し訳ありません」
(嘘付け!)
「三成君、その手に持ってるの……綺麗な和紙だねっ!」
「佐助様から、来世には婚姻届という物があるとお聞きしまして、私なりに考え作成してみました」
ひまりはその言葉を聞いて、
嬉しそうに三成から受け取る。
「三成君、ありがとうっ!後で家康、一緒に書こうね!」
俺の腕にしがみ付き笑う姿を見て……。
(この笑顔に免じて、今回は三成を許してあげるよ)
「家康」
ひまりは俺の名前を呼ぶ。
「……幸せにしてくれて」
本当に、ありがとう。
腕に擦り寄るひまりの髪に触れた後、指を滑らせ顎を持ち上げる。
「……ほんと、困ったお姫様」
「えっ……」
俺のお姫様は……
一瞬で、俺の全部を
持ってくんだから。
「……覚悟しなよ」
俺に一生
愛される覚悟を……。
天邪鬼な俺に……
全てを捧げた事を……。
後悔なんてさせないから。
「ひまり」
「家康」
愛してる。
石碑に映った二つの影が……
ゆっくり重なった。