第73章 約束の地へ 最終章 前編
俺は石碑に触れ、晴れ晴れとした空を見上げる。
「何だ、家康。流石に、お前でも緊張するのか?なんなら俺が、練習相手してやるぞ?」
「……余計なお世話です。政宗さんは向こうで三成の相手でもしてて下さい」
少し離れた所で佐助達と準備をしている三成に俺は視線を向ける。その手には、抱えきれない程の料理が乗っていて今にも崩れ落ちそうだ。
政宗さんはそれを見てやれやれと言うような表情を浮かべ、三成の元へ向かう。
政宗さんが去った後、俺は石碑に寄りかかり懐からある物を取り出す。
(本当ならひまりが戻ったあの日に、これを渡すはずだった)
佐助からひまりが戻るかもしれない、と微かな可能性を聞いた日の帰り道。俺は呉服屋に寄り耳飾りを作った職人を探し出して貰い……特別に櫛を作ってくれと頼んだ。
本来なら、これは婚礼を申し込む時に渡す物……けれど、あの時の俺は自分の腕の中で泣きじゃくるひまりを見て、言葉にするのが精一杯ですっかり渡しそびれてしまった。
(今日こそ、渡さないと)
一週間前、ひまりを城まで送り届けた後、信長様に呼び出され……。
ーーどうせなら、結婚式とやらを挙げてやろうかと思って、な。
ーーえ……!
ーー準備はもう既に始めておる。ひまりには、内密にしておけ。
その事を聞いた時、渡すなら今日が一番良いと思った。
俺は背中に視線感じ、後ろを振り返ると御座の上で座り込む第六天魔王と目が合う。
(結局、一番良いとこ持ってくし……ほんと、腹が立つんだけど)
野原の入り口から花畑に続く一本の赤い絨毯が、俺達の視線の下に轢かれていた。