第73章 約束の地へ 最終章 前編
そしていよいよ、祝言の前日___
私はあの衣装に着替え、家康の所の女中さんに身支度を手伝って貰っていた。
「お花摘んで来て頂いて、本当にありがとうございます!」
「いえ、家康様から本日はひまり様のお好きなように着飾れるよう、お手伝いをするように言われておりますので」
鏡の前で自分の髪に編み込まれた黄色い花を見て私がそう言うと、女中さんはその代わり、明日の祝言は正式な髪結いをさせて下さいね。と、優しい表情を浮かべる。
「針子の皆さんが作って下さった、被り物も本当に素敵ですね」
「私も今朝渡された時は、本当にびっくりして……」
私は自分の膝に置いてあるベールにそっと触れる。針子の皆んなが私の故郷には必要な物だと聞いたから。と、この時代にはない筈のベールのような物を作ってきてくれた。
(きっと、佐助君が信長様に話してくれて……)
そんな事を考えていると、襖の向こうからお迎えの到着を知らせる声が聞こる。
「……ほぅ。まさに孫にも衣装だな」
「光秀、今日ぐらいは素直に褒めてやらないか?……ひまり凄く綺麗だ」
「ふふっ、光秀さんも秀吉さんもありがとうございます。でも、確かお迎えは家康が来てくれるって……?」
部屋に入って来た二人を見て、まさかまだ昨日の事を怒っているのかもしれないと、私は少し不安になる。
(ちゃんと仲直りしたはずなんだけど……)
先輩のことであの後、私は部屋に連れていかれ家康に散々お仕置きをされた。でも、帰る頃には機嫌も直してくれて「また明日」って、見せてくれた笑顔。
「家康はある場所で待ってるおる」
「そこまで案内するのが、今日の俺達の役目だ」
「ある場所……?」
首を傾げる私の手を二人は掴むと、そのまま外へと向かった。