第72章 約束の地へ 後日談(10)
「『えっ!!』」
その事に驚いたのは、私と佐助君二人。
「なっ、な、なんでっ!!!」
「ひまりさん、その携帯は!!」
目の前に並べた二台の携帯のうち、一台のディスプレイに表示された「部長」という名前。向こうの世界に戻ってから新たに購入した物だと、私は慌てて佐助君に説明する。
「こっちの世界に戻る前に、これで石碑のある場所探してて、戻ってから処分しなきゃと思って持ち歩いてたんだけど…今まで一度も鳴らなかったよ!!」
まさか、また強制送還されるのではないかと思って、私はパニックになり一気に血の気が引く。
「ちょっ、ひまり!!」
今にも泣き出しそうな私を落ち着かせようと、家康が肩を掴み引き寄せてくれる。
「ワームホールはもう消滅したから、何かあっても大丈夫なはずだ。とりあえずひまりさん。電話に出て欲しい」
何か解るかもしれない、と佐助君に言われて私は恐る恐る指を動かし、受話器をあげる……。
「も、……もしもし、部長?」
すると……!
「あなた一体どこにいるの!!!!」
「わぁっ!ご、ごめんなさいっ!!」
部長の大声が耳に届き、思わず私は携帯を落とす。その時にスピーカーのボタンに触れてしまい、転がった携帯から部長のお説教が広間の中に響く。
「急に赤ちゃんが出来たからって退職届出して、制作発表は途中で居なくなるし、無理やりお嫁に行くとか意味の分からない事行って走り出すしっ!!」
どれだけ心配したと、思うのっ!!
「うぅ……本当にご心配お掛けてして、すいませんでした!」
思わず謝りながら私は携帯に向かって、頭を下げる。
広間に居た皆んなはその様子を見て、ただひたすら驚いた表情を浮かべていた。