第68章 約束の地へ 後日談(6)
(……優しい感じの人だったなぁ)
私はトボトボ歩きながら、縁談相手の事を思い出す。品もあり、落ち着いた物腰で色々と話をしてくれた。
(でも……)
目を瞑ると頭に浮かぶのは、野原で遠くを見つめる家康さんの横顔。
「……次にあんたに会う時は、ひまりも一緒だから」
家康さんはそう言った後、今度店に一緒に行くから。と、部屋を出る前に約束してくれた。
(ひまりさんに会ったら、私の気持ちも踏ん切りがつくかもしれない)
もしかしたら、今日店に来るかもしれない!そう思い、走り出そうとした時。
ドンッ!!
「わぁっ………!」
誰かの肩にぶつかり、その人が持っていた籠から赤い林檎が一つ、二つと地面に転がる。
「す、すいませんっ!」
私は謝りながら転がった林檎を拾うと、目の前の女の人に渡す。
「こっちこそ!ごめんなさいっ!」
拾ってくれて、ありがとう!
お礼を言いながら、ふわりと笑う女の人を見て思わずドキッと胸が跳ねる。
(……すごい綺麗な人)
私は生まれて初めて、女の人に笑顔に見惚れた。
「あのっ!良かったらお詫びにお団子食べに来ませんか?」
気がついたら、
私の口からそんな言葉が飛び出していた。
「えっ……?そんなっ、お詫びなんてっ、ちょっと肩が当たったただけだよ?」
私もぼっーとして歩いてたから気にしないで、と女の人は顔の前で両手を横に振りながら、首もふるふると動かす。自分が団子屋の娘なのを話し、今からちょうど店に戻る所だった事を説明すると、女の人は少し悩む素振りを見せた後……。
「なら、明日お店にお邪魔してもいいかな?今日は、早く帰らないと行けなくて……」
「はい!なら明日是非、お待ちしています」
私がそう返事をすると、女の人は笑顔で「約束ね」と小指を顔の横で立てた。