第68章 約束の地へ 後日談(6)
私は父親に付き添われながら、縁談相手の武家屋敷の前に辿り着く。
「ひまり、相手さんは下級武士とはいっても武士は武士だ。町娘のお前には願ってもない縁談相手だぞ」
「……解ってる」
私はギュッと手で拳を作り、入り口を潜り玄関まで足を進める。
中に入ると小さいながらも、綺麗に片付けられた部屋を見て、一瞬だけ家康さんの部屋が頭に浮かんだ。
ーーひまりさんの代わりに、抱いて下さいっ!
一昨日の夜、私は決心して恥を承知の上で肌を晒した。
家康さんには許婚のひまりさんが居る。頭では解っていても、僅かな希望があるなら。もしかしたら、一夜ぐらいなら……。と、淡い期待を抱いて縋る気持ちでお願いをした。
けれど、家康さんは私は裸体なんて目もくれなかった。
ーー……俺にあんたは抱けない。
ただそう冷たい声で、言った後……
ーーひまりは、必ず帰って来る。
強い意志の声で、そうはっきりと私に告げた。
家康さんには女の武器なんて……最初から通用する隙なんてなかったのに。
(……今頃、ひまりさんが戻られて、一緒に過ごしているのかもしれない)
そんな事を考えている間に、縁談は進み日取りなどの話を一通り終え、帰る頃には時の鐘が昼7つ(四時頃)鳴った。