第63章 約束の地へ 後日談(1)
俺は恥ずかしがるひまりを横抱きしたまま、自宅に向かって歩き出す。
「家康っ///……お願いだから降ろしてっ!」
「……無理。裸足で歩かせる訳にはいかないし、大事な身体に何かあったらどうすんの」
「倒れたのは、仕事でちょっと無理してたからで……ちゃんと睡眠と食事管理を気をつけて無理さえしなければ、普段どおりの生活で大丈夫です、って言ってたよ?それに私、重いし!」
(……この小柄な身体のどこが重いのか、俺には解らない)
腕の中で俺の羽織を着たひまり。そう言ってジタバタと暴れ出す。
「……今夜は駄目。……後でちょっとだけ無理させると思うから」
え……?
俺の言葉に暴れるのを止め、代わりに首を傾げるひまり。本当は無理させたくないけど、流石に指一本触れない自信は、今の俺にはない。
(……ほんと、鈍感)
俺は足を止め首だけ横に動かすと、すぐ近くにあるひまりの赤い唇を噛み付くように食べる。
「んっ……はぁっ」
ひまりの甘い掠れた声が、耳をくすぐる。
「……後で続きするから、大人しくしてて」
唇を離しそう囁くと、ひまりの頬がみるみる赤く染まった。
(……かわい)
俺は目の前にある額に口付けを落とした後、再び足を動かす。
「……そう言えば家康、羽織変えたんだね?」
この羽織、いつもと違う。
ひまりは、自分に掛けられた羽織をじっと見て、肌触りを確かめるように手を動かす。
(鈍感のわりに、変なとこは妙に鋭い)
あの羽織は団子屋の娘に被せた後、捨てた。
気に入ってはいたが、ひまり以外の香りが付いたのを、とても着る気にはなれず……変に本当のこと言って不安にさせたくないと思い、大分使い古したから捨てた。とだけ返事をする。
「そっかぁ……残念。私、あの羽織気に入ってたのに」
「……なら、新しい羽織仕立ててよ」
残念そうに俯いたひまりの顔が、今度は満面の笑みに変わる。
「うんっ!すっっっごいの作るね!」
「……お願いだから、普通のにして」
「ふふっ、冗談だよっ」
こんな他愛の無い話が出来るなんて、昨夜の俺には想像も出来なかった。