第62章 約束の地へ(17)
「私、貧血起こして倒れた時があって……その時に、看護婦さんに教えて貰うまで、全然気づかなくて……てっきりずっと体調崩してたのは、仕事を無理してた所為だと思ってて……でも、それだけじゃなかったみたい」
「まさかひまりさんっ!!」
ひまりの言っている意味が解ったのか、佐助は驚いたように声を上げる。すると、ひまりは嬉しいそうに頷くと……俺の手を取り、そっと自分の腹部に添えた。
「ひまり?」
「ふふっ。今はなるべく安静にして下さい、って言われたけど……」
(え………)
俺は、ゴクッと息を呑む。
「確か、この時代の言葉で言うと……」
少し考える様な仕草をした後、ひまりは
あの写真と同じように、優しい笑みを浮かべる。
御懐妊……って言うのかな?
俺の中から熱いもの。
それがじわじわと込み上がった。
「ちゃんと元気に育ってるって……わぁっ!!」
俺は思わずひまりに飛びつく。
自分の目から溢れた生ぬるいものを隠すようにひまりの肩に顔を埋め、ギュッと腕を回す。
「……い、え…やす。もしかして、泣いて……?」
「……男のおれ、がっ……泣くわけないで、しょ?……泣き虫の、ひまりと…っ一緒にしないでくれる?」
俺は震えそうになる声を必死に誤魔化し、ひまりの髪を掴む。
もう、本当に
天邪鬼なんだから。
そう呟くひまりの声を、耳元で聞きながら……俺は髪を掻き上げ、横からひまりの唇を奪う。
何度か重ねた後、いつの間にか信長様達は姿を消していて……離れていた分を取り戻すように、ひまりに深く口付けを落とした。
帰る前に、落とした耳飾りを拾い、
ひまりが持っていた方と
合わせる。
俺は両方を
ひまりの耳につけると
何があっても
ずっと
一緒にいよう……。
そう俺達は
この場所で
「約束」を
交わした。