第62章 約束の地へ(17)
「っ、ひっく………」
しゃくりあげながら少しずつ気持ちが落ち着いてきた私。でもまず何から話したら良いのか解らなくて……何を言ったら良いのか全然、解らなくて……思わず八つ当たりみたいに身体を少し離すと、家康の胸を数回力なく叩く。
「……裸足でっはしっ、て……くる、ぐっら……い。夢もっ……一瞬でっ……捨てれ、るっ……ぐらい。…だいっ……好物のけーき、もっ……あきらめ、るぐ……らい」
私は駄々をこねるように、そう言いながら何度も家康の胸を叩く。呂律が上手く回らない。それに本当はこんな事を言いたい訳じゃないのに、私の中でぐちゃぐちゃになった心。それが吐き出すように一気に溢れ出す。
「記憶がなくなっても……忘れれ…ないぐらい。何回でもっ……時を…っ越えるぐらいっ。こ、んなにも……家康のことっ好きな、のに」
ひっく、言葉の間にしゃくりあげる声。
ポロポロと涙を流したまま私はそこまで言った後、トントンと叩いていた手を止める……。
「信じて…く、れないと…っ」
「一緒に……生きて、くれないと」
俯いていた顔を上げ、
ただ真っ直ぐに家康だけを見た。
「……側に居てくれないと………や、だよっ!」
もういい大人なのに。
もうすぐ母親になるのに。
家康の前になると私はすぐ我儘になる。
例え、側にいれなくても……なんて、嘘だ。待って居てくれた事が嬉しくて、私の中の本音が全部曝け出すように、出てくる……本当は一緒に居たくて堪らない。
嫌だって言われても、側に居たい。本当は、こんなぐちゃぐちゃな顔なんて見て欲しくない。本当はちゃんと笑顔でただいま、って言いたい。