第61章 約束の地へ(16)
「はっ……はぁっ……」
森の入り口に佇む石を見つけ、足を止める。芝生の感触を直接感じながら、月明かりに照らされた花に近づく。
(ここだ………)
石碑を囲むように、一面黄色の花が咲き誇るその幻想的な光景に……乱れた呼吸が少しずつ、落ち着いてくる。
そして、そっと石碑に触れ見上げる。
「約束の地」
そこに書かれた文字を、心の中でそう読み上げた時。
ゴォォォォ……!
あの時のように、空が唸り声を上げる。
私は祈るように、胸の前で手を組み声を出す。
「私が家康とこの子を守ります」
絶対に死なせたりしない。
絶対に失ったりしない。
絶対にどんな困難でも、乗り越えてみせる。家康が作る未来を最後まで、自分の目で見届ける。例え一緒に居られなくても、遠くからでも、この子と見守れるなら……。
「私はどんな罰でも、受けますっ!でもっ、でも!この子にはっ……何の罪もありませんっ!!」
ゴォォォォゴォォォォ!!
私はギュッと目を瞑り、目の前を突き抜ける稲妻からお腹を庇う。
「だから……だからっ……」
神様が私を、許してくれなくてもいい。
だけど、今まで沢山辛い思いをしていっぱい我慢してきた家康と、その家康がくれた大切な命だけは幸せになって欲しい。
「だからっ!家康が居る世界に帰してっっっ!!!」
そう叫んだ瞬間。
時が止まったように音がなくなり、風が止む。
(え………)
さっきまで動いていたもの全てが、一切動きを止め、音のない何もないような世界があたりに広がった。
思わず怖くなって後ろに下がりながら震え出す身体を、自分で抱え込んだ時……。
シャランッ……。
耳飾りが滑り落ちた。