第60章 約束の地へ(15)
「……さっきから気になってたんですが、この辺りは花が有名なんですか?」
京都の案内板を超えたぐらいから、見え始めた黄色の花畑。まるで何かの道しるべのように、一直線に向かって植えてある。
「あぁ、あの花か。何でも……徳川家康が建てた、石碑の場所に向かって植えてあるらしい」
「えっ!!!家康がっ!!」
私は思いがけない名前を聞いて、衝撃が走る。身を乗り出して運転手さんの顔を見た。
「なんだっ?まるで徳川家康と知り合いみたいじゃねーか」
「そ、その話本当ですかっ!?」
「俺も地元人じゃないから、そこまで詳しくは知らないが……確か言い伝えによると遠くに行っちまった徳川家康の想い人が、再会を約束した石碑の場所まで迷わず帰ってこれるように、花で道しるべを作った……。とかなんとかで、この辺の住人はその言い伝えを大切にして、この時期になると田んぼ一面に花を咲かせるらしい」
私はその話を聞いた直後、車から降りて花畑に建てられた、小さな木の板を見る。
そこには
「花の別名 『ひまり』」
と、書かれていた。
「……っ!!」
それを見た瞬間。
思わず自分の口を塞ぎ、一気に涙が溢れる。
(……もしかして、教えてくれたの?)
私が間違えないように。
そっと、自分のお腹に手を当てギュッと目を瞑る。
ーー徳川家康 200年以上続く、江戸幕府を開いた初代将軍。
あの時は思わず、私が側に居なくても、家康の未来は変わらない……偉大な人なんだって思った。
でももしかしたら、
私があの世界に戻っていて……
側にいて……
それでも家康の
未来が変わっていないだけだったら……?
(……ううん。今はそれよりも)
私は顔を上げ、急いでタクシーまで戻る。
「お願いしますっ!その石碑に行き先を変更して下さいっ!」
再びタクシーが走り出したのは、夕陽が沈んだ後だった……。