第58章 約束の地へ(13)
控え室に入り、私はメイク道具を取り出すと鏡の中の自分を見つめる。
「ふふっ……相変わらず、ひどい顔」
赤く腫れた瞳を、指で押さえながら……そこに映った自分の顔を見て、思わず笑ってしまった。
下地で赤い瞼を誤魔化し、コンシーラーで顔色を整え、ファンデを塗り……鏡の中の私は、メイクの力で少しずつ変化していく。ヘアアイロンで髪を巻き、ドレスのイメージに合わせてアレンジをする。
最後に家康から貰った耳飾りをつけ、製作したドレスに着替えると、控え室のノックがなった。
「……素敵ね。女の私でも、うっかり惚れてしまいそうなぐらい、綺麗よ」
部長は控え室に入ると、鏡の前に立つ私の姿を見て、褒めてくれる。
「なら、このまま部長にお嫁に貰って、貰おうかな?」
私は軽い冗談を言いながら、部長の方に振り返り頭を下げる。
「推薦して頂き本当に感謝しています。……最後の仕事になりますが、精一杯努めますのでよろしくお願いします」
家康のことを思い出してから、気持ちの整理がつかなくて……でも、隠したまま仕事をすることに抵抗があった私は今朝、事情を話し退職届を提出した。
「私としては、ギリギリまで……っと、もう時間がないわ。話は終わってからしましょう」
「はいっ!行ってきます!」
控え室から出る直前、視界に映った一枚のカレンダー。
今日の日付を見て、
ドアノブを持った手が一瞬、止まる。
「………ひまり?早くしないと、間に合わないわよ?」
部長のその言葉に、
胸がどうしようもないぐらい、
騒いだ。