第56章 約束の地へ(11)
先輩の唇が、
あと数ミリで触れそうになった瞬間。
私はギュッと瞳を瞑る。
ひまり
(………え)
ひまりっ!!!!!!
「………!!!!!」
《ドンッ!!》
「……ひまり?」
私は先輩の胸を突き飛ばす。
(違う……)
髪の触れ方も、耳の掛け方も、顎の触れ方も……私の名前の呼び方も。
(………全部、違う)
「………ごめんなさい。帰ります」
先輩の腕からすり抜け、私は一礼をしてからその場を後にした。
家に戻った私は、肩に掛けていたカバンを下ろし、引き出しから耳飾りを取り出す。
「ずっと……不思議だった」
どうして片方だけなのか。
どうしてこれだけが
触れても見ても
涙が出なかったのか……
でも、やっと解った。
「これだけが唯一……」
家康と繋がってたからなんだね。