第8章 近づく距離
静まりかえった部屋に、
胸だけが早鐘を打ったように鳴り出す。
自分の中から、まだ知らない感情が駆け巡ってくる気がして、私は慌てて視線を逸らした。
「……こ、このままじゃお腹空くから、女中さん呼んでくるね」
落ち着かない心を何とか鎮めようと、立ち上がった時、突然着物を引っ張られる。
「……ひまりでいい」
家康は私の着物の裾を掴んだまま、今まで聞いたこともない甘い声で言う。
「でもさっきは、嫌だってっ……」
「気が変わった。……早くして」
「で、でもっ!お粥冷めちゃ…たしっ」
「猫舌だから丁度いい。……それとも、俺を飢えさす気?」
さっきと全然違う展開に、戸惑いながら口元に匙を差し出す私とは反対に、家康は何食わぬ顔でお粥を食べ始める。
お粥を全部食べ終わる頃には、
空に浮かんだ月は、深夜を教えていた。