第54章 約束の地へ(9)
「ひまり。身体大丈夫?」
隣から誰かの声がする。
「……何とか、大丈夫かな?」
私は軋む身体を横に向けながら、誰かの胸に顔を寄せる。
「ごめん。歯止めきかなくて……無理させて」
私はその言葉に首を横に振る。
「いっぱい愛して貰えて、幸せだよ?」
それに生きててくれた事が、何よりも嬉しかったから……
「……信長様には、殺されかけたけどね」
「えっ!?」
「でも、帰ったら今度こそ殺されるかも」
俺の大事な娘を、祝言もあげる前から身ごもらせる気か?ってね。
「ふふっ……その時は、私も一緒に怒られるよ」
一緒なら怖くないよ?
私は誰かの手に自分の手を絡ませる。
二度と離れない。
二度と離さない。
目の前の翠色の瞳に吸い込まれ、私はそっと自分の瞳を閉じる。重なった唇が、誓いの印のように……優しくて、胸に温かさがじんわりと広がった。
ピッ、ピッ、ピッピ……。
あの時と同じように、機械音が耳に届き私はゆっくりと瞼を持ち上げる。
白い天井が見えて、首を隣に動かすと看護婦さんがそれに気づいた。
「大丈夫ですか?どこか痛みなどありますか?」
「大丈夫です。私……確か図書館で……」
最後に覚えている記憶を頼りに、状況を思い出す。
「倒れた原因は睡眠不足と栄養不足です。貧血をおこしやすいですから、気をつけて下さいね」
「最近、仕事で少し無理しちゃって……ご迷惑をかけてしまい、すいませんでした」
「いえ、仕事ですから。それよりも身体大切にして下さいね」
今はーーーーーーーー。