第53章 約束の地へ(8)
「一時的に脳が錯乱状態になり、記憶が混乱したり、部分的に消えてる場合があります」
(そんな………)
「ならっ!何で石碑なんかっ!!」
ここに居たことも俺のことも……全部忘れていたら、あの石碑は無意味なものでしかない。
取り乱す俺の肩を、佐助は掴む。
「憶測とか、仮説とか、計算とか、可能性とか、そんなもの彼女なら全部乗り越えてくれる……あなた達二人なら俺が予測も出来ない事を、成し遂げてくれるっ!!」
そう思ったからです!!
いつも冷静な佐助が、腹の底から声を上げる。
「ワームホールも前に観測した時とは、少し変化しています」
上手く言えませんが、消滅しかかっている……そんな表現しか出来ないと。だから、今回がこの世界と向こうの世界を繋ぐ、最後になるかもしれない。
「……何とかしてあの石碑まで辿り着く、道標を作るしかありません。前にひまりさんの荷物を見て、彼女が今、どこで暮らしているかは解っています。全てを思い出した彼女なら、きっと俺とこの世界に来た場所まで向かうはず……その道中に、今回の出現場所まで案内させなければなりません」
「道標?…………」
俺は暫く考え込む。
時を超えてひまりに伝える道標。
「……なら、俺がそれを作る」
残り一週間でどこまで出来るかは解らないが……佐助は珍しく口元を緩めると穏やかな声を出す。
「全ての不可能が可能になった時、本当の奇跡は起こります」
俺はあなた達、二人を……信じています。
俺は城から自宅に戻る途中……
あの野原に向かう。
ひまりと俺の思い出の場所。
ーーどうしてっ!何でっ今、そんな事言うのっ!?
最初に来た時、自分の気持ちを全部ここに置いて、ひまりを泣かした。
ーー好きだ……どうしようもないぐらい、ひまりのことが……好き過ぎて自分を見失うぐらい……。
次に来た時は、全部自分の気持ちを吐き出し、ひまりの心と唇に触れた。
そして今度は……。俺は野原の真ん中で、黄色い花に囲まれた石碑に触れる。
「約束の地」
俺とひまりを繋ぐ場所になる。